漁場環境保全の活動 その10 荒川における環境改善の打合せ
近年これまでになかった自然災害の多発に対応し、国民の生命財産を守るための国土強靱化事業が積極的に実施されています。ただし、早急な事業拡大により河川法の目的の1つである「河川環境の整備と保全」がおざなりになり、以前からある渓畔林の伐採や瀬淵構造の直線化などにより、河川環境が劣化する事例が多発しています。
今回甲府市内を流れる荒川で河川内の浚渫・伐採事業が行われ、これによる河川環境の悪化が懸念されました。このため、当該河川を漁場とする山梨中央漁協が、発注者である県の中北建設事務所へ河川環境の改善を図るよう要請をしたところ、一定区間において浚渫作業が一段落したことから、関係者が集まり改善方法について協議することになりました。
令和3年8月31日、千松橋下流の工事現場に、山梨中央漁協、中北建設事務所、請負業者、山梨県水産技術センター、当漁連の関係者十数名が集合しました。
一定区間の浚渫・伐採工事はほぼ終わり、工事区間の中央に幅5m、深さ60cmほどの澪筋が掘られ、その左右に石が仮置きされていました。当日は水位が30cmほど高いため、澪筋を含む右岸半分を水が流れていました。
中北建設事務所の担当者から「澪筋周辺に石を配置し、流れに変化をつけたい」、山梨中央漁協からは、「川底にも石を配置して欲しい」との要望がありました。
実はこの周辺では以前にも、河川環境を改善する試みが行われています。しかし、努力した割には、なかなか顕著な効果が得られていません。なぜなら甲府市街地を流れる荒川は、山間の狭窄部から流れ出した扇状地上にあり、防災のため半世紀近く前から近代的な河川改修が行われ、落差工が連続して設置され、低水路は護岸で固めてあります。このため川の直ぐ脇を掘削すると、多分土石流で流されてきたであろう2mを越える巨石が出てきますが、流路内の巨石は河川工事に伴い撤去または破砕され、底質の粒径が小さくなっています。
また、この区間の平水時の流量は、盆地内での経済活動のため、上流で上水、農業用水等に大量に取水されていることから、河道断面が大きい割に平水時の流量が少なくなっています。さらに、この区間は設置された落差工により、本来の河床勾配の約1/2に緩やかになっています。加えて上流からの土砂供給もほとんどないことから、河床は固くしまるなど条件が厳しく、環境を改善するのはかなり難しい場所なのです。
かつてあった泳げるような環境を再生させることが理想なのでしょうが、現状でそれは不可能であることから、残された石を使って少しでも改善させる方法を検討してみました。
低水路幅一杯に流路を振り、交互砂州を作ることは、治水上リスクを伴うので避けたい、との河川管理者の意向がありました。これを踏まえた結果、堤防の天端にやや余裕のある落差工の下流の部分に、治水上支障のない範囲内でなるべく大きな淵を作るのが、ここの漁場環境を改善させるのに最も有効だと考えられました。そこで落差工の直下流は出水時に洗掘されることから、落差工からの水勢が弱まるであろう20m下流でアーチ状に石を組み、その上流に淵を形成させることを提案してみました。具体的には、現地にある大きい石を使い、できれば3段ぐらい積み重ね、河床から石の上端までなるべく高くする。
また、その下流の区間は先に述べたようなことから漁場改善は難しいものの、50mピッチで水制工を設けて流路に変化を持たせ、後は出水による自然の変化に任せることになりました。
左が上流、石の上端は下流(右側)へ傾き、石と石はうろこ状に重なっている。
以上のことについて意見交換をしながら、参加者で設置場所の詳細等を検討し、最終確認を行いました。
最後に、山梨中央漁協の宮島組合長が、「こういった機会を設けていただいたのはありがたい。人にも魚にも良い河川を残していくために、今後も共に検証していけたらと考える。」と挨拶をしていただき、打合せを終了しました。
県漁連としても、今後どのように仕上がるのか、期待しながら注視して行きたいと思います。
また、このような漁場環境改善のための機会を与えていただいた、中北建設事務所河川砂防管理課の担当者の皆様、施工業者の皆様、技術指導していただいた県水産技術センターの皆様、魚を住みやすくするために熱い情熱を燃やしている山梨中央漁協の皆様に、併せて厚く御礼を申し上げます。
山梨県の釣り情報|山梨県漁業協同組合連合会
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